こんにちは!高校教員のあかべらです!
2022年4月から高校で投資の勉強が始まると話題になっています。
事実、投資を含めお金に関する勉強(=金融教育)が本格的に始まります。
しかし、金融教育は0からのスタートではなく、これまでも行われていました。
また、投資の勉強に割ける時間も多くなく、ガラッと勉強内容が変わるわけではありません。
この記事では、家庭科の学習指導要領をもとに金融教育や投資の勉強について分析しています。
報道に振り回されずに家庭科教育の実態を見ていきましょう!
金融教育とは?
金融教育とは具体的に何を指すのでしょうか。
金融庁の「基礎から学べる金融ガイド」(2021年1月発行)を見てみましょう。
目次は以下のようになっています。
- 家計管理
- 生活設計
- 預貯金
- 株式/債券/投資信託
- 生命保険/損害保険
- クレジット/ローン
- その他サービス
- 外部知見の活用
- トラブルに注意
金融教育は「お金に関することを学ぶ」と捉えて問題なさそうです。
4月から金融教育が始まると聞いてこんなに新しい内容がたくさんあるのかと思った人もいるかもしれません。
実は金融教育自体はこれまでも行われていました。
次は学習指導要領からその内容を読み取ります。
学習指導要領(家庭)の比較
平成21年(2009)と平成30年(2018)に発表された学習指導要領を比較します。
なお、後者の学習指導要領が2022年4月入学の1年生から適用されます。
科目の比較
高校生が学ぶ家庭科には、各学科に共通する教科「家庭」、主として専門学科において開設される教科「家庭」があります。
ここでは、普通科の生徒が学習する、各学科に共通する教科「家庭」について見ていきます。
平成21年 | 平成30年 |
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家庭基礎(2単位) 家庭総合(4単位) 生活デザイン(4単位) ※いずれかを履修 | 家庭基礎(2単位) 家庭総合(4単位) ※いずれかを履修 |
3科目から2科目に減少しました。
学習指導要領の比較
家庭総合の内容のうち、金融教育に関するところを抜粋します。
平成21年 | 平成30年 |
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(3) 生活における経済の計画と消費 生活における経済の計画,消費者問題や消費者の権利と責任などについて理解させ,現代の消費生活の課題について認識させるとともに,消費者としての適切な意思決定に基づいて, 責任をもって行動できるようにする。 ア 生活における経済の計画 生活と社会とのかかわりについて理解させ,生涯を見通した生活における経済の管理や 計画の重要性について認識させる。 イ 消費行動と意思決定 消費行動における意思決定の過程とその重要性について理解させ,消費者として主体的に判断できるようにする。 ウ 消費者の権利と責任 消費生活の現状と課題,消費者問題や消費者の自立と支援などについて理解させ,消費者としての権利と責任を自覚して行動できるようにする。 (5) 生涯の生活設計 生活設計の立案を通して,生涯を見通した自己の生活について主体的に考えることができるようにする。 ア 生活資源とその活用 生活の営みに必要な金銭,生活時間などの生活資源についての理解を深め,有効に活用することの重要性について認識させる。 イ ライフスタイルと生活設計 自己のライフスタイルや将来の家庭生活と職業生活の在り方について考えさせるとともに,生活資源を活用して生活を設計できるようにする。 | C 持続可能な消費生活・環境 次の(1)から(3)までの項目について,持続可能な社会を構築するために実践的・体験的な学習活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。 (1)生活における経済の計画 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア)家計の構造について理解するとともに生活における経済と社会との関わりについて理解を深めること。 (イ)生涯を見通した生活における経済の管理や計画,リスク管理の考え方について理解を深め,情報の収集・整理が適切にできること。 イ 生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性について,ライフステージごとの課題や社会保障制度などと関連付けて考察し,工夫すること。 (2)消費行動と意思決定 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア)消費生活の現状と課題,消費行動における意思決定や責任ある消費の重要性について理解を深めるとともに,生活情報の収集・整理が適切にできること。 (イ)消費者の権利と責任を自覚して行動できるよう,消費者問題や消費者の自立と支援などについ て理解するとともに,契約の重要性や消費者保護の仕組みについて理解を深めること。 イ 自立した消費者として,生活情報を活用し,適切な意思決定に基づいて行動できるよう考察し,責任ある消費について工夫すること。 (3)持続可能なライフスタイルと環境 ア 生活と環境との関わりや持続可能な消費について理解するとともに,持続可能な社会へ参画する ことの意義について理解を深めること。 イ 持続可能な社会を目指して主体的に行動できるよう,安全で安心な生活と消費及び生活文化について考察し,ライフスタイルを工夫すること。 |
新学習指導要領では持続可能な社会という点が強調されていますが、大体の内容は継続されているといってよいのではないでしょうか。
金融ガイドの内容はいずれの指導要領にも大体含まれています。
つまり、金融教育はこれまでも行われてきたのです。
学習指導要領解説の比較
次に指導要領の解説を見比べてみます。
解説は文量が多いので、経済の計画に絞って比較します。
平成21年の解説(高等学校学習指導要領解説家庭編) | 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説家庭編 |
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家計管理の基本について理解させるとともに,生涯にわたる短期,長期の生活設計を行う上で必要な病気や事故などの不測の事態に備えたリスク管理の方法など,個人の資金管理の基本的な考え方を理解させる。その際,ローン,クレジットの利用などに加えて,貯蓄,保険,株式などの基本的な金融商品などにも触れる。 | (前略)生涯を見通した経済計画を立てるには,教育資金,住宅取得,老後の備えの他にも,事故や病気,失業などのリスクへの対応策も必要であることについて理解し,預貯金,民間保険,株式,債券,投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット,デメリット),資産形成の視点にも触れながら,生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする。 |
なんと平成21年の学習指導要領にも「株式」の記載がありました。
びっくり!
株式に触れるということは投資の話もすることになるはずです。
投資の内容も0からのスタートではなかったのです。
平成30年の学習指導要領では、「基本的な金融商品の特徴」「資産形成の視点」に触れることが明記され、内容が充実しました。
このあたりが投資の勉強が学校で始まるという根拠になっているのでしょう。
実際の授業はどうなる?
この記事を書くにあたり、複数の家庭科教科書を調べました。
私が見た教科書はいずれも投資については約1ページしか取り上げられていませんでした。
教科書通りに授業が進んでいけば、投資の授業は年に1時間程度になります。
これで投資の授業が始まると大々的に宣伝していいのか疑問が拭えません。
また、家庭科の先生自身が投資による資産形成をしていないと授業の質も高まりません。
まとめ
4月から新しい学習指導要領が適用になり、金融教育が本格化します。
しかし、金融教育自体はこれまでも行われており、勉強内容に大きな変化は見られません。
「資産形成の視点」が盛り込まれたことで、投資の勉強が始まるとの報道も見られますが、投資に割ける授業時間は年1時間程度でしょう。
投資の勉強については学校に過度な期待は禁物です。
家庭の役割も重要です。
学校と家庭で協力して生徒の金融リテラシーを高めていきたいですね。
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